観葉植物やアクアリウム、水耕野菜を楽しむ愛好家たちの間で急速に存在感を高めているブランド「BARREL」。植物育成ライトを始め、室内での植物栽培をサポートする製品を幅広く扱っています。ブランドを率いる大門慎也社長は、トップ美容師として活躍したのちに起業した異色の経歴の持ち主。本記事では、大門社長の歩みとBARRELの人気の秘密をじっくりとひも解きます。
バイト漬けで授業は居眠りの中学・高校時代
──仕事に就く前はどんなことに興味がありましたか。
滋賀県で生まれ育ち、中学ではバスケットボール部でした。顧問からは期待してもらっていたのですが、厳しい指導に嫌気が差してしまい退部しました。代わりに、実戦空手の道場に通うようになりました。
同時にアルバイトも始めました。家庭が貧しいわけではなかったのですが、服やいろいろなものを自分で買いたかったんです。高校時代も含めて飲食店やゴルフ場、土木作業など、いろいろな仕事を経験しました。どんな事でも、やればできると実感していました。ただ、勉強は好きでも得意でもなく、授業中はよく居眠りをしていました。
高校卒業が迫り、美容師を目指すことにしました。手を動かすこととおしゃれが好きだったので、髪をデザインする美容師なら好きなことが両方できると考えてのことです。卒業後、地元サロンへ就職しました。初任給は10万円ほど。雑用をこなしながら通信課程で資格の勉強をして、美容師免許を取りました。
美容師としての成功と限界
──美容師時代について詳しく教えてください。
都会に憧れがあったので、地元のヘアサロンを辞めて東京に移りました。しかし、東京暮らしも想像していたほどではなく、特に人の多さが好きになれず、1年ほどで退社して愛知のサロンへ転職しました。東京より人は多くないけれど名古屋という大きな街があり、自然が豊かな点に魅力を感じたんです。
新しく入ったサロンでは、カットやパーマといった施術をして腕をふるうことができました。施術だけでなく、街頭で声を掛ける呼び込みにも力を入れました。300人規模の会社だったのですが、すぐに成果が上がり、売上トップ10に入ることができました。およそ2年後には、新店舗の店長やマネージャーを任されるようになりました。
サロンの仕事は順調だったのですが、だんだんと忙しくなっていき、開店前や閉店後でも施術することが増えていきました。得意で好きだった仕事がストレスに変わってしまったんです。
そんな私のことを心配したのか、ある時、先輩がサーフィンに誘ってくれて、それから何度も行くようになりました。場所はいつも決まっていて、渥美半島の伊良湖のあたりです。サーフィンそのものも楽しかったのですが、それ以上に、波を待つ間に自然の山や緑の景色を眺めることに、心が解きほぐされるような癒やしを感じている自分を自覚しました。この体験が、植物に関わる仕事を始める大きなきっかけになりました。

(出典:写真AC)
アルバイト生活に逆戻りの創業期
──結局、美容師を辞めて起業したのですね。
はい。勤めていた美容院を26 歳の時に辞めた時は、何をやるか決めていませんでした。ただ、根拠のない自信はありました。やりたいことを考えながら市場機会を調べる中で、自然や植物を相手にした事業をしようと決めました。2016年、BARREL創業です。
個人事業主として、海外製の野菜育成ライトを輸入して楽天市場で販売するところからのスタートでした。当時、育成ライトは海外で注目され始めていた分野でしたが、日本ではほとんど売られていなかったんです。
しかし、仕入れたライトは売れず、美容師時代に蓄えた貯金は次第に底を突き、実家に戻ってアルバイトをしながら事業を続けるという厳しい状況でした。最初の3~4年は全然うまく行きませんでした。計画が思うように進まず、悔しさから涙したこともありました。
それでも諦めなかったのは、植物が好きという気持ちと、様々な人に会う中で、植物育成ライトには大きなチャンスがあると確信を深めていけたからです。農業大学の先生からも「このライトはいろいろな市場に入っていけそうですね」と言っていただいて、「いつかうまくいくはずだ」という自信がありました。
植物育成ライト1,000個が1週間で完売に
──初のヒット商品となった「アマテラス」はどのように生まれましたか。
2019 年、アクアリウムインフルエンサーのクマノミ(kumanomi.360)さんに監修していただき、水槽環境に適した電球型 LED ライト 「アマテラス」 を開発しました。
従来のアクアリウムライトは青波長が強く、水を美しく見せる反面、水草が白っぽく見えたり、赤い魚の色味が鮮やかに映らなかったりする課題がありました。そこで「アマテラス」では、赤波長を補うことで植物の成長を促進しつつ、水草の緑や魚の赤をより美しく引き立たせるスペクトル設計を採用しました。また、苔の発生も抑制する波長バランスとなっています。さらに、当時主流だったパネル型ではなく、インテリア性を重視したバルブ(電球)型のデザインとすることで、空間全体に上質な印象を与えるライトを目指しました。

アクアリウム向けライト「アマテラス」
(出典:www.barrelled.net)
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アマテラスは、まずは1,000個を作って販売しましたが、わずか1週間で完売しました。ブランドの知名度が一気に拡大し、他のライトの注文も増えました。アマテラスのヒットをきっかけに、名古屋に戻ってオフィスを構えました。
以降、BARRELでは、植物育成ライトのラインナップの拡充に加え、ライトスタンドや空気循環ファンの「エクメア」など、植物育成をサポートするさまざまな商品も開発・販売しています。2025年現在は10名弱の社員が共に働いてくれています。

小型送風機「エクメア」
(出典:BARREL公式Instagram)
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「エクメア」を組み合わせた使用例
(撮影:BARREL)
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妥協や横着から失敗は生まれる
──ユーザーレビューを見ると、BARRELさんの製品は「使い勝手がいい」「デザイン性が高い」という評価が多いですね。特にデザイン性は、美容師時代に培った美的センスが活きている気がします。
感性は美容師時代に磨かれたものがあったと思います。今は事務所でも植物を育てながら、どういう空間にどんなデザインの製品があると美しいのかを探究しています。学問として植物やデザインを学んできたわけではないですが、だからこそ生まれる発想もあると感じています。新しいアイディアは、各分野の専門家や長年植物育成をしてきた方にぶつけ、アドバイスをもらって商品になっていきます。
──植物育成の分野で一際輝くBARRELさんですが、品質管理と性能の強化にも力を入れていると聞きました。
美容師時代に学んだことの一つは、妥協や横着から失敗は生まれるということです。少人数で品質管理を徹底するのは簡単ではありませんし、販売数が増えればその分お客様からのご指摘もいただくことになるので、内部だけでなく外部からもエンジニアや専門家にも入ってもらって品質の向上を行っています。

育てている塊根植物オペルクリカリアパキプス
(撮影:BARREL)

(撮影:BARREL)
性能については、さらに研究を進めています。例えば、BARRELのライトを使えば、室内にいながらサツキやグラキリスの花が咲く様子を楽しんだり、ジャガイモが実をつけて収穫できるほど、植物の四季を身近に感じることができます。これからも、お客様から信頼してもらえるBARRELブランドを丁寧に育てていきます。
SNSと自社ECで広がるBARRELライトの光

(出典:Instagram)
https://www.instagram.com/barrel.plantlight/
──現在、BARRELさんは主に楽天市場と自社ECで製品を展開していますが、自社ECを作った経緯は。
最初は楽天市場などのECモールだけで販売していました。ただ、それだけだと自由にページを作れませんし、運営会社に依存するリスクもあります。そこで2019年に自社ECを立ち上げました。本格的に力を入れ始めたのは2021年からです。SNSのインフルエンサーの方々の商品紹介を見てBARRELを知った人が、徐々に自社ECに来てくれるようになりました。商品ページだけでなく、光学や植物に関する解説記事、植物と暮らす人たちの紹介、製品カタログといったコンテンツを増やしていきました。今でも楽天市場の販売は続けていますが、自社ECが中心になっています。

(出典:www.barrelled.net)
https://www.barrelled.net/
──BARRELさんには、私たちトガリズムのデジタルマーケティング支援をさせていただいています。率直に、これまでの支援内容はいかがでしょうか。
ECをやってきたものの、デジタルマーケティングの専門知識はほとんどない状態でしたので、トガリズムさんに入ってもらいました。毎月の打ち合わせでは詳細な資料が用意され、学びがあります。未経験で入社した弊社の担当者は、今ではアクセスを集める記事を自力で書けるようになりました。市場や消費者心理について親身になって考えてくれる点もいいですね。
病院をジャングル化?バイオフィリア計画、進行中
──最近では法人からの依頼も増えているそうですね。
創業からずっとBtoCで販売をしてきましたが、最近は建築士や不動産業者など、空間設計を手掛ける法人からのお問い合わせも多くなりました。
中でも特に刺激を受けたのが、今年開業予定の内科の先生からのご相談です。「病気になってから治すのではなく、予防医学を広めたい」と考えていらっしゃる先生です。予防医学には、①食事 ②睡眠 ③運動 ④自然 ⑤人間関係 ⑥エイジズム が重要ということで、BARRELにはこのうちの「自然」、具体的には、植物を室内に取り入れる「バイオフィリア」を実現できるライト設備についてお問い合わせいただきました。
その先生が目指しているのは、クリニックの中を“ジャングルのような食べられる植物”で満たすこと。バナナやコーヒーの木、ゴーヤなど、本来は屋外や温室でしか育たないような南国植物を中心に植えるそうです。驚くべきことに、その植物たちは先生ご自身が八丈島まで足を運び、直接買い付けたものなのだそうです。
BARRELのサイトをご覧になり、光の専門家として本質を追求している姿勢を感じていただいたことが、先生が声をかけてくださったきっかけでした。私たちも、病気になる前の人の健康を守ろうという先生の強いお考えに感銘を受けました。現在、クリニックは開業準備中で、BARRELとして南国の植物たちが元気に育つ室内環境づくりをお手伝いしているところです。
──そこからさらに製品の活躍の場が広がっていきそうですね。最後に、読者へのメッセージをお願いします。
外はなぜ心地よいのでしょう。それは、光、空気、緑が心地よいからです。ストレス社会と呼ばれる現代だからこそ、グリーンをもっと身近に感じてもらいたいですし、もっと照明の質や空気の循環に目を向けてみてほしいです。ライトは太陽のように輝き、ファンは初夏の風のように爽やかに。BARRELはこれからも「植物と人の共存」を目指し進んでいきます。

(撮影:BARREL)

超高演色パネルライト「ロキ」で育成
(撮影:BARREL)
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