COLUMN

情報過多でストレスの多い現代日本。日本文化の精神や知恵を学べば、心身が整い見失った自分軸を取り戻せる──。そう語るのは、一般社団法人日本文化伝承協会の専務理事、宮澤伸幸氏です。協会が開催する巫女体験は、わずか2年で約1500人が受講。さらに近年は、所作や気遣いの姿勢を学ぶ企業研修でも支持を集めています。本記事では、連続起業家として成功したのちに日本文化伝承の道へ進んだ宮澤氏の歩みと協会活動に込めた想い、さらには巫女体験の現場で講師として活躍する宮下優子氏の軌跡を掘り下げます。

31歳でFIRE達成も、罪悪感とストレスはますます強く

──学生時代やこれまでのお仕事はどのようなものでしたか。

青森の田舎で生まれ育ち、大学で関東に出た私は、在学中からビジネスを始めました。ネットで買取販売をする事業を立ち上げ、当時は中古バイクやサプリメント等を扱いました。投資もしました。

卒業後はさらに拍車をかけ、31歳の頃には今の言葉でいうFIRE(経済的自立と早期退職)のような状態になりました。そこで、ここから先はもっと社会のために何かをしようと決めました。

お金儲けだけにアクセルを踏み続けることに、罪悪感が出てきたのです。利益を追求する過程で自然環境を壊し、何かを買って一瞬豊かになったように見えても、心は不安やストレスでいっぱいです。私だけでなく、現代生活を送る人の多くもそうなってしまっている。

模索する中でたどり着いたのが、日本の伝統文化でした。江戸時代以前には今のような問題はなかったはずで、当時は神社仏閣が社会の中でしっかり機能していました。そこに、現代の課題を解決するヒントがあるのではないかと思ったのです。

そこで、祖父が神社の宮司を務めていたこともあり、神道の世界へ一歩踏み入れました。神道には、八百万の神々と他国の宗教も受け入れ、祖先を崇拝し、森羅万象に精霊や神が宿ると捉え、自然の恵みに感謝すること。人として大切な姿勢や気配り。そういう考えが根っこにあるんです。

神道は宗教と思われていますが、教祖も経典もありません。実は宗教というよりも、日本が大事にしてきた精神性と文化の体系が神道なのです。

神事における参進(入場)の様子
神事における参進(入場)の様子

──神道の世界から、さらに日本文化伝承協会の立ち上げへとつながっていくのですね。

転機は、元文化庁長官の近藤誠一さんとの出会いでした。お話をする中で、神道や日本の伝統文化には、現代の私たちの心を整え、強くする力があると確信するようになりました。

そこで、日本文化の精神性を体感して学ぶ場を提供するべく、近藤さんを初代代表理事に迎え、日本文化伝承協会を立ち上げました。

これならアクセルを全開にしても環境は守られるし、強くてぶれない心を持つ人が増える。自分の子供にも胸を張って「こういう仕事をしているんだ」と言える。そう考えました。

巫女体験は、年齢を重ねた美しさへの入口

白衣に緋袴の巫女たち
白衣に緋袴の巫女たち

──巫女体験や巫女検定を始めたきっかけやその中身を教えてください。

私の師で、歴代総理大臣の特別顧問をされた元外交官の加瀬英明さんの言葉がきっかけです。大和心を持った女性が増えれば、その視線によって男性も変わり、社会も変わる、と。

そこで、巫女検定を作り、検定の入口として巫女体験も用意しました。巫女体験は、巫女舞に興味を持つ方も多いですが、神道の基礎や歴史等の座学を通して精神性の理解も促します。

特に興味を持っていただけるのは、「氏神」は現在住んでいる地域の神様、「産土神」は生まれた土地の神様、という話です。それぞれをお祀りしている氏神神社、産土神社の存在を知り、根っこに感謝しお参りに向かう方が多いです。

巫女体験会で神道について説明する講師
巫女体験会で神道について説明する講師

巫女体験では、「年齢を重ねるたびに、美しく」を掲げています。呼吸や姿勢、所作、言葉づかい、判断基準を整えます。そうすると、焦りや怒りに振り回されにくくなり、年齢を重ねるほどに表情や立ち居振る舞いに美しさがにじみ出ます。

私たち一人ひとりが内面から美しくなることで、社会全体も美しくなっていくと信じています。巫女体験はSNSを中心に話題になり、開始から2年でおよそ1500人の人が受講しています。

神道・神社に古くから伝わる巫女舞
神道・神社に古くから伝わる巫女舞

──巫女体験や巫女舞の講師をされている宮下優子さんにもうかがいます。どういった経緯で現在に至ったのでしょうか。

私は元々旅行会社の添乗員でした。20代の頃はフラメンコに熱中してスペインに留学もしました。その後、結婚・出産を経て、お寺の台所で働き始めたのが一つの転機です。

せっかくお寺にいるなら日本的なお稽古をと、神楽に由来する創作舞を習い始めました。そこの家元が巫女の家系の方で、神道に基づいた心の整え方も教わりました。その後、巫女体験というものがあることを知って参加し、気づけば教える立場になっていました。

フラメンコは感情をそのまま外へぶつける自己表現ですが、巫女舞は最小限の所作に思いを込め、意識を内側に向けていった先を型として身体化したものだと感じています。真逆のようですが、「自分の軸を大切にする」ということは共通していると感じています。

体験会で巫女について学ぶ受講者たち
体験会で巫女について学ぶ受講者たち

企業やインバウンド、そして世界に広がる日本文化伝承協会の活動

──協会は、巫女以外の活動にも力を入れていますね。

はい。まず、男性も受講できるように神職体験を開催しています。白袴を着て日本の精神を学びます。

それから、近年は企業研修にお声がけいただくことも増えています。所作・作法を通して、他者への感謝と相手を思いやる姿勢だけでなく、パソコン・携帯電話・会社・取引先・お客様へと八百万の感謝が養われる内容です。

座学で基礎を学んだ後には、野山や海などに入り、自然の恵みがどう生まれているのかを体験として学ぶ研修も実施しています。

元日の長野県霧ヶ峰で毎年元日に行われる雪中禊
元日の長野県霧ヶ峰で毎年元日に行われる雪中禊

──協会の今後がますます楽しみです。

今後は茶道や華道など「道」のつく団体と組んだり、国内外の旅行会社とも提携して、全国に学べる拠点を増やしていく予定です。それから、すでにインバウンドの方々が巫女体験に来てくれていますので、海外への展開も考えています。

──最後に、読者に伝えたいことをお願いします。

これを読んでいる方は、ぜひ一生に一度は巫女体験、神職体験を受けていただきたいです。単なる技術習得ではなく、情報過多で「あるべき自分の姿」を見失いがちな現代生活の中で、自分の軸を見つけるきっかけになるはずです。

2025年の大阪・関西万博で巫女舞を奉奏
2025年の大阪・関西万博で巫女舞を奉奏
1925mの天空の社、車山神社の前で手を合わせる巫女
1925mの天空の社、車山神社の前で手を合わせる巫女
INTERVIEW

宮澤 伸幸

宮澤 伸幸

Nobuyuki Miyazawa

一般社団法人日本文化伝承協会 専務理事。青森県戸来村出身。大学生時代から起業し、30代前半でセミリタイアを経験したことを機に、日本の伝統文化の道へ進む。現在は協会運営のほか、神社の宮司、複数企業の役員や株主も務める。趣味は土いじり。

INTERVIEW

宮下 優子

宮下 優子

Yuko Miyashita

一般社団法人日本文化伝承協会の巫女体験講師、車山神社の巫女。専門学校卒業後、旅行会社の添乗員として勤務。20代でスペインにダンス留学し、帰国後はフラメンコショーに出演する。結婚・出産後、神楽と出会い、神社で巫女として奉職。児童養護施設ではボランティア活動にも取り組んでいる。

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