COLUMN

ボストンコンサルティンググループCMO「AIでマーケティングの生産性は50%上がる」

2023年12月に公開されたTEDトーク動画「What Will Happen to Marketing in the Age of AI?(AI時代にマーケティングには何が起こるのか?)」は、公開から約1年半で再生回数67万回に達しています。これは、マーケティング領域ではトップクラスの再生数です。登壇者はコンサルティングファーム大手ボストンコンサルティンググループ(BCG)のグローバルCMO、ジェシカ・アポテカー氏。彼女はこの講演で、生成AIがマーケティングの生産性を最大50%押し上げると予想し、経営環境そのものを再設計するインパクトを提示しました。少し前の講演ながら、日本でもAI活用が本格化した今こそ、その洞察は経営判断のヒントとして価値を増しています。

そこでこの記事では、この講演の要点をざっくり解説した上で、日本の経営者に向けてデジタルマーケティングにAIをどう取り入れていけばいいか考察します。AI時代の競争優位を築く意思決定に役立つ内容ですので、経営者の方、マーケティング担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。

また、AI音声でも本テーマについて解説しています。移動中や作業中の方に便利なコンテンツとなっています。

BCG CMO ジェシカ・アポテカー氏のTEDトークの内容

ボストンコンサルティンググループのCMO ジェシカ・アポテカー氏のTEDトーク「What Will Happen to Marketing in the Age of AI?」の動画(英語)とその日本語要約は次の通りです。

AI時代にマーケティングはどう変わるのか?この講演では、AI時代におけるマーケティングの未来を深く掘り下げます。生成AIは、かつてワープロや表計算ソフトがもたらした生産性革命の再来です。AIは私たちの働く時間を短くしてくれるわけではありません。私たちは、今までと同じ時間で、より長い文書や資料を作り、膨大なデータを見て複雑な意思決定をするようになります。

AIが変革するマーケティングの生産性

マーケティングは生成AIによって最も影響を受ける分野の一つです。私たちは、生成AIはマーケティングの生産性を最大50%向上させると考えています。生成AIは単なる効率化にとどまらず、マーケティングのあり方そのものを根本から変える力があります。これまでマーケティングは感情に訴える創造的な「右脳型」の活動が中心でしたが、これからはデータ分析・予測・最適化といった論理的な「左脳型」のスキルがかつてないほど重要になります。

AI活用のメリットとリスク

AI導入の最大の利点は、超パーソナライゼーションを実現できる点にあります。膨大なデータを高速に解析し、顧客一人ひとりの属性に合わせた最適なコンテンツを自動生成できます。その結果、パーソナライズされたメールや広告が届き、顧客エンゲージメントとコンバージョン率が向上します。

一方で、AIにはリスクも存在します。生成AIが同じデータソースを参照すると、企業間で似通ったメッセージが量産される恐れがあります。ブランド独自の声が埋もれ、差別化が難しくなる可能性があるため注意が必要です。さらに、品質管理や誤情報拡散といった倫理的課題にも組織として向き合わなければなりません。

企業が取るべき戦略

私たちは企業に対し、次の三つの戦略を提言しています。

「左脳AI人材」の育成と活用

AIツールを構築・活用し、組織全体に普及させる能力を持つデータサイエンティストやデータエンジニアといった人材を積極的に育成し、組織の中核に組み込むことが不可欠です。彼らがAIの力を最大限に引き出し、ビジネスの成果に繋げる役割を担います。

外部データとの戦略的連携

自社が保有するデータだけでなく、外部のデータパートナーと連携することで、新たな顧客層へのアプローチや、これまでになかったイノベーションの創出が可能になります。データのエコシステムを構築し、より広範なインサイトを獲得することが競争優位に繋がります。

「右脳人材」の保護と育成

AIに過度に依存すると、企業独自の独創性やブランドアイデンティティが損なわれる危険があります。真のクリエイターやイノベーターといった「右脳型」人材を見極め、AIを効果的に活用できる環境を整えることが重要です。最終的なアイデア創出の源泉は人間の創造性であり、AIはその実現を支援するツールとして位置づける必要があります。

日本企業がAI時代にデジタルマーケティングで生き残るために

「デジタルマーケティングなんてやっても集客できない」そう考える企業が、静かに市場から退場させられる時代が始まっています。生成AIによってコンテンツ制作やデータ分析といったデジタルマーケティングの業務のハードルがかつてなく下がっています。それに気づいた競合がマーケティングを賢く強化している中で、何もしない企業は徐々に顧客接点を失い、市場のニーズをつかめなくなるリスクがあります。

一方、生成AIをいち早く取り入れた企業は、少ない人員でもマーケティングコンテンツの大量生産や、データに裏打ちされた有効な施策を展開できるようになります。デジタルマーケティングの生産性が向上し、余裕をもって新規事業や新たな市場開拓に取り組めます。結果として、生成AIを味方につけた企業は、より安定した事業基盤と収益構造を構築できるのです。

ここからは、アポテカー氏の考えを踏まえて、日本の企業がAI時代にどのようにデジタルマーケティングに取り組むべきかを考えていきます。

「左脳AI人材」にマーケティングを業務委託する

生成AIもからめて高度化するデジタルマーケティング業務に誰が対応できるのでしょう。ボストンコンサルティンググループが支援するような大企業でない限り、社内だけで対応する必要はありません。むしろ、外部の専門的な「左脳AI人材」にマーケティングを業務委託することが現実的で効果的です。

たとえば中小企業が生成AIでマーケティングのパーソナライゼーションを考える場合、AmazonやYouTubeのようなビッグデータがあるわけではありません。大量の商品、訴求コンテンツがあるわけでもありません。それでも、AIに強いマーケティングの専門人材に委託すれば、購入履歴やGoogleアナリティクスのようなサイトアクセスデータを元にマーケティングのパーソナライゼーションは十分に可能です。

高額で無用の長物になりがちなマーケティングオートメーション(MA)ツールに課金しなくても、「前回購入から30日後にリピート購入を促すメッセージ」や、「商品Aを購入した人に関連商品を紹介するメッセージ」といった施策を手軽に実行できるのです。

業務委託によって専門知識を持つ左脳人材を活用すれば、自社のリソースを圧迫せず、迅速かつ確実にデジタルマーケティングの精度を向上できます。企業が効率よく成果を出し、競争力を維持するための有効な選択肢と言えます。

アイディアは生成AIでもっと創造的に戦略的なものに作り込む

先述のアポテカー氏が指摘する通り、左脳的な施策ばかりを追いかけていると、どの企業も似たり寄ったりの結論になりがちです。差別化を図るためには、マーケティングに右脳的な要素を積極的に取り入れ、創造的なアイディアを生み出す必要があります。

このとき重要になるのが、生成AIを使ったアイディアの磨き込みです。たまたま目にしたX(旧Twitter)の投稿やネットのバズ記事のような小さなきっかけで生まれたアイディアを、AIとの徹底的な壁打ちを通して洗練させ、具体的で戦略的な施策へと昇華させるのです。

生成AIを使ったリアルタイムでの対話で、創造性と戦略性を兼ね備えたマーケティング施策を迅速に作り上げることができます。

コンサルでも作業代行でもない「AIマーケティングエージェント」という選択肢

日本企業がAI時代にデジタルマーケティングで生き残るためには、「AIマーケティングエージェント」という選択肢も検討したいところです。

デジタルマーケティングを外部委託する場合、従来はコンサルティング会社か作業代行業者に依頼するのが一般的でした。しかし、こういった方法では、高度化するデジタルマーケティングは立ち行かなくなってきています。

コンサルティング会社はマーケティング全般を見てくれますが、費用が高く、実行はしてくれません。そして、これが最も重大な問題なのですが、マーケティングの実務経験から来るノウハウは蓄積できておらず、有効な戦略を描けない場合がよくあります。5年前に無効化したマーケティング手法を、いまだに熱心に教えているコンサルティング会社は珍しくありません。手を動かさずに全てを理解できるほど、デジタルマーケティングは単純でも永遠不変でもないのです。

一方、作業代行業者は、「SEO記事の作成だけ」「WEB広告運用だけ」といった、デジタルマーケティングの決まりきった狭い領域を代行する企業やフリーランス、副業ワーカーなどです。

作業代行業者に依頼する場合、具体的な指示はすべて企業側が行わなければなりません。指示を出すことは簡単そうですが、WEBやマーケティングの基礎知識が必要です。また、その施策が本当に自社にとって最善の方法かどうか、業者自身は判断ができません。「同じ予算ならもっと他にやったほうがよいことがあるのでは」という疑問に、作業代行業者は、自身の立場を離れて答えることができないのです。

そこで注目されているのが、「AIマーケティングエージェント」という選択肢です。

AIマーケティングエージェントは、生成AIなどの高度なテクノロジーを活用し、マーケティング戦略の立案から具体的な施策の実行、そしてその効果測定と改善まで一気通貫でサポートします。企業側は細かな指示や作業管理をする必要がなく、戦略決定や方向性を示すことに集中できます。

さらに、施策の実行過程で得られたデータやインサイトがAIを通じて蓄積され、それを継続的にマーケティングに反映していくため、効率よくノウハウを社内に残すことが可能になります。

つまり、「コンサルティング会社」と「作業代行業者」の弱点をカバーしつつ、AI時代に必要なマーケティング能力を合理的に高められる新しい選択肢、それがAIマーケティングエージェントなのです。

おわりに

今回は、AI時代のマーケティングのあり方について、BCGのCMOの発言を入口に考えてきました。AIマーケティングは、今が面白い時期です。毎月のようにChatGPTやNotebookLM、Claudeといった生成AIツールの新機能がリリースされ、それらを使って競合他社を出し抜く、あるいは、AIを新規事業成功の原動力にする、といったことを発想しやすくなっています。

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また、トガリズムは、「AIマーケティングエージェント」として、戦略立案から実行まで一貫支援します。国立理系研究所出身者がデータを分析して「勝ち筋」を導き、高額なコンサルや指示頼りの代行業者とは異なるマーケティングを行います。SEOやWEB広告、SNSといったベーシックなものから、従来は広報の領域とされていたプレスリリースやインタビュー記事といったものまで、AIを駆使することで安価に提供しています。

AI活用についても豊富な実践経験に基づいた支援が可能です。トガリズムの各種サービスの詳細は、下記からご確認ください。

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